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■ビートルズと英国文化 - ブラックバード | |
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この鳥は,各種の対訳によって「ツグミ」と訳されたり,単に「ブラックバード」と記されたりしているが,動植物が詩歌に歌われた場合,その指し示すイメージを外国人が理解することは非常に困難である。たとえば,「秋の虫の声」と言えば,日本人には哀愁漂う詩的情景を呼び覚ますが,欧米人にとってはただの「雑音」に過ぎないと言われる。したがって,日本人がblackbirdのイメージを正確につかむのは困難であるが,『イギリス四季暦 春夏』(出口保夫/出口雄大著 東京書籍)収録の以下のエッセイを紹介することによって,そのイメージの一端をつかむことができる。 『春の小鳥たち』「ところでイギリスの春の小鳥のさえずりは,実にたのしいものである。ああ,春が来たなと思うのは,その小鳥たちのにぎやかな歌声を耳にするときである。あるイギリス人が,日本の小鳥の鳴き声はイギリスの小鳥にくらべると,あまり美しい歌声を聞かせてくれないようだと不満をのべているが,たしかにそのとおりかもしれない。 春の小鳥のなかで,もっとも美しい声で鳴くのは,ナイティンゲールであるが,この鳥は薄暗い所で鳴くところから,小夜啼鳥(さよなきどり)とも訳される。しかしロンドンの近郊では,この小鳥の姿はほとんど見られなくなったが,ナイティンゲールの美声とあまり変わらない鳴き声の持ち主がいて,同じような美声で春のよろこびを告げてくれる。 ロンドンの宿舎で,美しい小鳥の声で目を覚ますことがしばしばある。ロンドンの市内でも,家にはたいてい広い芝生の裏庭がある。おもての通り路からは,とてもこんなところに広い裏庭のある家があるとは想像もつかないのだが,そこがいかにも自然を愛するイギリス人らしいのだ。その裏庭にはたいていブナとか,カエデなどの大木が繁っているから,小鳥たちがよくやってくる。 ナイティンゲールにかわる美声の持ち主は,ブラックバードで,その名の示すとおり,黒い小鳥で,日本ではクロウタドリと呼ばれる。くちばしだけが黄色くて,あとはまるでカラスのように真っ黒だが,それほど羽根は大きくないから,見た目には可愛い。しかも鳴き声は,ナイティンゲールそっくりときているから,春の小鳥のなかでもブラックバードが最高である。表通りには,はげしく自動車や人が行き来し,とても美しい小鳥の声が聞かれるとは思えないようなロンドンの繁華街で,春の朝,美しい小鳥の声で目が覚めるときくらい,胸がおどることはない。 あのナイティンゲールがやってきたのかと思って,抜き足でそっと窓辺に近づき,カーテンのすきまから,庭の小鳥の声のする方を見ると,たいていこのクロウタドリが,のどをふくらませて一生けんめいに鳴いている。あんな真っ黒な小鳥が,よくもあんな美声で鳴けるものだと思うくらい,その歌声は美しい。 誰かが朝食のパンの残りでも,芝生の上にばらまいてやると,いつの間にか黒い小鳥たちは,あちこちから集まってくる。黄色のくちばしで,パンくずをつついているこの小鳥たちの姿は,なんとも愛らしいものである。」 (31〜32ページ) |