「マジカル・ミステリー・ツアー」の“失敗”によってビートルズ神話に翳りがさしたと思われたのもつかの間,1968年ビートルズは3つの武器を持って彼らのカリスマが健在であることを証明した。 その3つのうち二つは,シングル「ヘイ・ジュード」とアルバム「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」の大ヒットであった。しかし,映画の失敗に関してはさらなる決め手が必要…。そんな中で登場したのがこのアニメーション映画「イエロー・サブマリン」であった。 しかし,この映画,一般には「ビートルズの映画」といわれるものの,肝心の4人は映画の最後にちょっとだけ実写で登場している以外はほとんどタッチしていない。4人の名前を持つキャラクターは登場しているが,声はすべて声優のものである。その意味で実はこの映画は「ビートルズ映画」と言いづらいものがあることも確かである。 ちなみに,1980年,“主夫生活”を送っていたジョンに音楽界復帰を決断させたのは,幼稚園の映画会でこの映画を見てきた息子ショーンの,「パパ,今日イエロー・サブマリンを見てたらパパが出ていたよ。パパってビートルズだったの?」という言葉であったといわれるる。ショーンが自分の父を認識したのはおそらくこのシーンだったのだろう。 この映画は,“Love”をキーワードに「愛と音楽が世界を救う」というメッセージがこれでもかと注ぎ込まれた作品であり,全編色鮮やかなサイケデリックな画像の連続である。これらは,1960年代末期のフリーセックスとドラッグの上に成り立った「フラワー・ムーヴメント」(ヒッピー文化)の象徴でもある。そのため,イギリスでは現在この映画は「麻薬映画」と捕らえられることもあるらしい。
この映画の評判によって「ビートルズ映画」の評価も高まったが,実はこの作品はビートルズとはなれたところでもアニメーション映画の傑作として非常に高い評価を受けている。 30年以上前,東京である大学の漫画研究会だったかアニメ研究会だったかが主催して都内の公会堂のようなところでこの映画の上映会が開かれたことがある。映画の案内には映画製作者のジャック=ダニングの名があり,確か,生誕何周年だったか,追悼記念だったかそんな上映会となっていた。どうやらその大学生たちはこの映画を純粋な「アニメの傑作」として上映しようとしていたようだ。しかし,どうも客席を埋めているのはアニメファンではなくビートルマニアたちだということが分かり,非常にがっかりしたという旨の挨拶をしていたことを思い出す。 Blu-ray,DVDで発売中。
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