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■ビートルズ研究No.1 高等学校地理・歴史科,公民科教育におけるビートルズについて

はじめに

 ビートルズの曲が中学校や高等学校の音楽の教科書に登場するようになってもうかなりの年月が経過した。また,近年は英語の教科書でもビートルズを取り扱ったものが増えていると聞く。しかし,振り返って私が担当している地歴・公民科においてはどのような状況であろうか。以下に簡単にレポートする。

 平成6年度からの教育課程全面改訂によって旧「社会科」が「地理・歴史科」(以下『地歴科』と略称)と「公民科」に分割され,『世界史』が必修科目とされた。そして各教科書出版社とも新課程用の教科書を発行してきたが,喜ばしいことにその中にビートルズのことを正面から取り上げたものが散見されるのである。実際に私も現在の勤務校においてビートルズに関しての記述がある教科書を使って授業を行っているが,今回私はそのすべての教科書を,特に『世界史』教科書において「歴史上の人物ビートルズ」がいかに取り扱われているかという観点から調査し,どのような形態で取り扱われているかを一覧表にまとめてみた。また,同時に世界史を中心に地歴・公民科関係の副教材・資料集に関しても同様の調査を行い一覧を作成した。その結果について簡単に説明を加えてみたい。

 まず世界史教科書に関して目立つことであるが,今回入手できた全25冊中7冊という,何と3分の1近くの教科書にビートルズ(あるいはジョン=レノン)の名が登場しているのである。昨年度までの旧課程においてはゼロであったわけであるからこれは大きな変化である。しかも今回,彼らは,興味を引くためのエピソードとしてではなく,きちんと「歴史上の人物」として取り扱われているのだ。特に今回注目すべきは三省堂発行の教科書における取り扱われ方である。三省堂は『詳解 世界史B』(受験用の教科書としては山川出版社の『詳説 世界史』と並んで最高の権威を持っている)において,本文で,「ジョン=レノン」を音楽家としてではなく「反戦思想家」として取り上げている。音楽としてではなく思想のみに焦点を当てたことには多少の問題も感じるが,ここには従来は見られなかったまったく新しい取り組みが見られる。さらには同社は日本史や公民科の『現代社会』『倫理』においてもビートルズを大きく取り扱っている。編集者の中にビートルズの文化史的意義を正しく把握している人物がいるようだ。

 そのほか今回は副教材についても調査を行ってみたが,やはり世界史資料集においては多くのものでビートルズがとり上げられるようになった。特に実教出版の用語集(世界史事典に類するもの)に「歴史用語」として掲載されているのが目を引く。ただ残念なことに,かつてビートルズに関する資料が多く見られた現代社会の資料集からは彼らに関する記述が減少しているようだ。かつて「青年文化」のシンボルとしてビートルズをとり上げていた資料集が,ビートルズの代わりにサザン=オール=スターズや松任谷由美をとり上げるようになったことが目立つ。ともあれ,副教材の類は一般書店で注文すれば取り寄せてもらえるので,興味がある方は一度目を通してみていただきたい。

 私はこれまで,世界史や現代社会の授業の中で,一貫して教材としてビートルズをとり上げ続けてきが,(たとえば『ヘルプ!』は揺れ動く若者の心理を表現した歌詞が現代社会の資料として優れているし,ウイングスの『アイルランドに平和を』はイギリスにおけるアイルランド問題の絶好の資料である)これからは公的に正式に「歴史上の人物」としての彼らを授業でとり上げることができるのである。そして,これからは「学校の授業で始めてビートルズを知った」という世代が登場するのである。この新しい時代の到来を迎え,我々高等学校教員は「歴史上の人物」としての「ビートルズ」と「人類の文化遺産」としての「ビートルズの楽曲」を高等学校教育の中で正しく次の世代に伝え残すという重大な責任を帯びることになった。襟を正してオーディオシステムに向かい合わなければならなくなったが,彼らの持った反逆精神を学校教育の中でスポイルしてしまうことのないよう,これからも研究に励まなければならないと考える次第である。

(注)研究の内容は平成6年当時のものです。

■高等学校 地理・歴史科/公民科(旧社会科)教科書(平成7年度版)に登場するビートルズ

プロデュースセンター出版局発行"nowhere"誌(季刊ムック)1994年秋号掲載の大坂執筆の論文より

教科書 編



教科書名取り扱い形態         備     考         









詳説 世界史×××× 大学受験用の詳しい教科書
新世界史××××大学受験用の詳しい教科書
世界の歴史××××
高校世界史××××
要説世界史×××× ロック=ミュージックの語あり
現代の世界史×ミュンヘン公演の写真掲載


詳解世界史B××× 「ビートルズ」の語はないが,「ジョン=レノン」が反戦思想家として本文に取り上げられている
 *大学受験用の詳しい教科書
三省堂 世界史B××××
明解世界史A××××
詳解日本史B× 写真は日本公演のもの,注は写真に付属
 *大学受験用の詳しい教科書
明解日本史A年表は「'66 ビートルズ 公演」
現代社会×××ジョンの"LOVE","POWER TO THE PEOPLE","IMAGINE"の全歌詞・訳詞あり。
詳解 倫理××写真は日本公演のもの,注は写真に付属



世界史B× 写真は日本公演のもの,注釈は写真の注
 *大学受験用の詳しい教科書
歴史と現代 世界史A××××




高等学校 世界史B×××× 大学受験用の詳しい教科書
高等学校 新世界史B××××    
高等学校 世界史A××写真は初期のスチール,注は写真に付属



世界史B×××× 大学受験用の詳しい教科書
高校世界史B××××    
世界史A××写真は日本公演時のもの



詳解世界史B×××× 大学受験用の詳しい教科書
新世界史B××写真は日本公演の物,注は写真に付属,プレスリーと併記
新世界史××××    

世界史B××××
世界史A××××    

明解世界史A××写真は初期のステージ写真,注は写真に付属
*平成6年5月調べ。世界史教科書に関してはほぼ全教科書。それ以外の教科書に関してはビートルズの記述があるもののみ。


資料集 編



名 称種別価格           取 り 扱 い 形 態           




山川

世界史総合図録

総合資料730 項目:「20世紀の文化」/写真はエド=サリヴァン・ショウ,
説明:「1950年代末にイギリスのリヴァプールで旗上げした4人組のミュージック=グループ。
電子楽器とコーラスは全世界の若者を熱狂的に魅了し,1960年代の若者文化のシンボルとなった。



新総合

図説世界史

総合資料750 項目:「20世紀の文化と科学技術の発達」/写真はテレビ=ショウのリハーサルより
説明:「ビートルズの演奏〜1960年に誕生したグループサウンズ「ビートルズ」は,そのマッシュルームカットの髪型とともに,60年代後半の若者たちの熱狂的な支持を得,全世界にビートルズ旋風を巻き起こした。
それは,管理社会への反発という点で,同時代に起こったヴェトナム反戦運動や大学闘争と共通項を持っていたといってよい。
新選
図説世界史
総合資料750項目:「科学技術の発達と現代の文化」/写真同上,解説は上記の簡略化




精選

世界史図表

総合資料700 項目:「現代の文化」/写真は初期のスチール/
説明:「ビートルズ」が誕生したのは1960年。革ジャンをスーツに着替え,前髪を切りそろえたマッシュルーム=カットを売り物に,新しいグループサウンズはロンドンで大流行を生み出した。
64年アメリカに上陸。彼らの曲はヒットチャートで1位から5位までを独占するという前代未聞の記録を打ち立てた。70年解散。80年,ジョン=レノンが射殺された。



新詳

世界史図説
ニュービジュアル版

総合資料770 項目:「20世紀の文化」/写真は日本公演,
説明:「イギリスのリヴァプール出身の4人の貧しい若者が世界に登場したのは1963年,そして1969年に解散するまでにレコード売り上げ約2億300万枚という空前の記録を作り,外貨獲得の業績により女王からナイトの位を得た。
*プレスリーも併記。



必携

世界史用語

用語集780 重要度:A〜Dの内D/
説明:イギリスのロック=グループ。
1960年代の世界のポップス音楽界を席捲,社会的現象となる。
70年解散。代表作『レット=イット=ビー』

ロックで学ぶ現代社会

ロックミュージックを利用した高等学校「現代社会」授業の実践例のご紹介です。

教科書 「ロックの歴史」

ロックミュージックを中心に古代から1980年代までの音楽の歴史を世界史教科書風に記述してみました。